著者に聞く「家で死ぬことって、難しいですか?」 vol.2

現在、日本で亡くなる人の数は年間約120万人、そのうち8割以上が病院で亡くなる。自宅で最後まで過ごしたい、住み慣れた環境で必要以上の医療を受けることなく最期を迎えたい、と望む人の数は少なくないにもかかわらず、現実には最後の場所に自宅を選ぶことはなかなかハードルが高いようだ。

この度、保健同人社より『家で死ぬこと、考えたことありますか?』を上梓した訪問看護師の秋山正子さんは、地域で生活する高齢者や自宅での生活に助力を要するがん患者に適切な看護とケアを提供することで、最後まで自宅で過ごす生活を支え続けている。

書籍表紙

2011年10月初旬発売開始!
定価1,575円(本体1,500円)
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東京都新宿区で、20年にわたって地域と向き合い、「人生の幕引きのお手伝い」を手がける秋山正子さんに話を聞いた。

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もっと地域を「つなげる」こと 「暮らしの保健室」の開設へ

今夏、秋山さんは新しい試みを始めた。住み慣れた町で、長く暮し続けるために医療や生活の悩みを相談する場所を設けたのだ。「暮らしの保健室」というその場所は、東京都新宿区戸山の団地の一角にある。高齢化率が46.3%と急速に上昇している団地には、70代~80代で要支援レベルながら1人暮らしが可能なお年寄りが多く暮らしている。

「暮らしの保健室」では病気の悩み、生活の悩み、薬の飲み方などの質問を気軽に相談でき、日によっては、薬剤師や看護師も在室して、薬の飲み合わせや病院のかかり方といった相談にも応じてもらえる。ボランティアが来室者の気持ちを聞きながら、専門職にも取り次いでくれる。

7月1日のオープン以来、約2か月間の間にのべ90人余りが訪れ、健康についての不安や悩みを相談しているという。約70平米の明るく広い空間には常に人の気配があり、予約なしで訪れても温かく迎えてもらえる。

また、訪問看護の分野において先駆的な試みとしての注目度も高く、取材に訪れた日にも看護学部の学生たちが見学に訪れていた。

震災不安から1人暮しを断念はさせない

東日本大震災後、それまでずっと1人暮らしを続けてきた80代の女性から、「毎日、不安で仕方がない。1人暮しを続けていけるか心配」という相談があったという。女性は、不安に駆られるまま、近所の人を早く起こしてしまうなどしてご近所との関係も悪化したという。

「こうした不安のある方をそのままにしておくと、最後には救急車をしょっちゅう呼ぶようなことになったりして、『やっぱり一人暮しはむりじゃない』という結論が出がちです。でも、きめ細かく相談に乗ったり、不安を取り除けるように定期的に顔を見せたり、繋がっていける場があれば、それでもう少し、一人暮しを続けていけるかもしれない」

そうした配慮は、同時に「周囲の人」に対しても必要だという。

「1人暮しの高齢者を見守る周りの人にとっては、『自分たちが世話を焼かなくてはならなくなるのでは』、『もし、気づかないうちに1人で亡くなっていたらどうしよう』という不安があります。不安に向き合うことが必要なのは当事者だけではありません」

こうした気持ちは遠くに住んでいる家族や親せきにも見られるという。当人だけでなく、その家族、周囲の人に対しても「ここにいますよ」「いつでも相談に乗れますよ」と存在を伝えることが、当人の生活を支えることにつながる。

「もし、本人がもう何もわからない状態だったり、こだわりがないのであれば、無理して在宅をお薦めはしません。でも、人間ってだいたい馴染みのある場所にいることだけで落ち着くものです。風土や食べものや言葉や会話、そういったものが生活を支えていますよね」

暮らしの保健室1

「暮らしの保健室」東京都新宿区戸山。

暮らしの保健室2

「暮しの保健室」は団地内の商店街に、空き店舗を利用してオープン。予約の必要はなく、誰でもふらりと訪れることができる。

がんの患者が集える場があってもいい

秋山さんには、暮らしの保健室に託すもう一つの夢がある。がんの患者さんがふらりと立ち寄れる相談窓口となることだ。イギリスにあるがんの相談窓口、マギーズセンターは、がん患者とその家族が自由に立ち寄ることのできるサロンだ。くつろげる空間の中で自分の症状や不安についての的確なアドバイスや情報を受けることができる。プライバシーを保ちながら相談をすることができる個室もある。スタッフはボランティアの他に医師や看護師、臨床心理士といった人々が時間を決めて常駐している。

今回、暮しの保健室を設立するにあたって、その要素をいくつか暮らしの保健室にも取り入れた。

「トイレは広く大きくしました。いろいろな人に使ってもらいやすいし、何かあったときに1人で泣ける場所にもなります」

「室内の一角を区切って、個室にできるような作りになっています。個人的な相談をちょっとしたいときに、対応できるように」

ポイントは、病院の中ではない、街中の場所にあることだ。病気の説明をされて、気分が落ち込んでいるときに、医療の言葉で自分の状態を確かめるのは辛いものに違いない。病院を出て、一人の人間としての自分を取り戻したところでゆっくりと落ち着いた気持ちになって、それから病気と向き合えばいい。

「がんの患者さんとご家族だけでなく、いずれは医療者や介護職も含めて相談を受けられるような場に育っていけばいいと思っています」

暮らしの保健室3

見学に訪れた学生たちに説明する。

暮らしの保健室4

人の気配が常にある。

秋山正子(あきやままさこ)
秋田県生まれ。1973年聖路加看護大学卒業。産婦人科病棟にて臨床経験を重ねた後、大阪・京都にて看護教育に従事。1990年に実姉を末期がんで看取った際に在宅ケアを経験したことから、訪問看護の世界に足を踏み入れる。
1992年より東京・新宿区で訪問看護事業に深く携わる。現在、(株)ケアーズ 白十字訪問看護ステーション・白十字ヘルパーステーション統括所長として現場を訪問する傍ら、新宿区の介護サービス事業者協議会や新宿区地域看護業務連絡会の委員を務める。また、大学の看護学部の非常勤講師として後進の育成にも携わっている。「30年後の医療の姿を考える会」会長、「NPO法人白十字在宅ボランティアの会」理事長。著書に『在宅ケアの不思議な力』『在宅ケアのつながる力』(医学書院)ほか。

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